発達障害と脳⑤〜脳の混線状態
2018-03-19 更新
はじめに
人の体は成長に伴い、遺伝子レベルで決まっている細胞の生成と消滅を繰り返します。この働きは、脳においても非常に重要な役割を担います。こちらでは、発達障害とも関係するアポトーシスとはどのような現象なのか、障害を持った子供の脳は、健常者の脳とはどこが異なるのかを見ていきましょう。
発達に不可欠な自然消滅プログラム
人の身体は、不要なものを「作る」、「壊す」という過程を経て発達します。分かりやすい例をあげると、受精してから2ヶ月あたりまでの胎児にはしっぽやエラが見られ、呼吸は、このエラを使って行います。しかし、お母さんのお腹の中で育つうちに、人として生きていくことができるようにそれらは全て消失し、口で呼吸を行う体になって産まれるのです。 この一連の現象は、環境に適した状態を整えるために人の身体に生まれつき備わった自然消滅プログラムによるものです。これは、一見遠回りのようにも感じますが、健全な成長のためには非常に重要なプロセスなのです。一度作られた不要物を壊すこの働きは、アポトーシス(細胞死)と呼ばれています。
脳内もネットワークの生まれ変わりで成長する
アポトーシスは、胎児が赤ちゃんの形になり産まれてくるまでの間だけに起こることではありません。脳の神経細胞でも、絶えず同じようなことが起こっています。 ものごとを習得する際には、新しい神経ネットワークが形成されます。そして、一定の時間が経っていらなくなると消滅し、必要であればより高速な伝達ネットワークに強化されます。ネットワークの形成と、消滅もしくは強化を繰り返して学習し、生きていくのに適した脳へと成長するという仕組みです。
生まれ変わりがうまくいかないのが発達障害
発達障害を持つ子供は、アポトーシスが上手くいかないことから神経ネットワークの生まれ変わりがスムーズにできず、混線してしまいます。本当ならば切れているはずの部分がつながっていたり、消滅すべきネットワークが残っていたりすると、感覚が定まらず生活の不具合につながるのです。
感覚異常の出方には個人差がありますが、代表的な症状をいくつか紹介しておきます。
- 身体の一部が自分のものではないように感じる
- 騒音に過敏になり大勢の人がいる場所を避けたがる
- 身体が分断されているような感覚になる…など
感覚異常があると、人がたくさん集まる場所に出かけるのが難しく、引きこもりがちになってしまいます。集団生活に支障が生じるため、生活圏が広がらず社会性を養う機会を逸することにもなりかねません。障害を持つ子供の自立を願うなら、可能な限り症状改善を目指すのが賢明でしょう。
感覚異常を改善する鍵は、脳神経の生まれ変わりを促進させる
症状改善を目指すためには、新しい神経ネットワークを作り出し、混線した部分の死滅を促す方法が考えられます。トラブルが起きている部分を死滅させ、新しい細胞への生まれ変わりを促進するという手法です。これを繰り返すことにより、神経内に正常なネットワークが増えてきて、感覚異常が気にならなくなってきます。
発達障害は細胞レベルで起こる先天的なトラブルではあるものの、一生克服できないわけではありません。発達の順序やスピードは、健康に生まれた子供と異なりますが、適切な支援により改善に近づくはずです。可能性を信じてサポートを行うのは、周囲の人の役割。共に歩んでいく意識を忘れずに一歩ずつ前進していきましょう。
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